山奥に潜む異形の影

ホラー

岐阜県の山間部に住む俺は、昔から地元の猟師たちから奇妙な話を聞いて育った。山の奥深くには何か得体の知れないものが潜んでいて、夜になると不気味な音が響き渡るってさ。でも、俺はそんな話を半信半疑で聞いてた。だって、今の時代にそんなオカルトじみたことが起こるわけないだろ?

でも、ある秋の夜、俺の考えは一変した。その日は仕事が遅くまでかかって、車で山道を帰ってたんだ。時計はもう午前1時を回ってた。霧が濃くて視界が悪かったけど、慣れた道だから特に気にせず運転してた。すると、カーブを曲がったところで、突然ヘッドライトに何かが映った。

最初は鹿か何かだと思った。でも、よく見るとそいつは明らかに普通の動物じゃなかった。背が高くて瘦せこけた体、異様に長い腕、そして顔らしき部分には目も鼻もなかった。ただ真っ黒な穴がぽっかり空いてるだけ。俺は急ブレーキをかけて車を止めたけど、心臓がバクバクして動けなかった。

そいつはゆっくりこっちに近づいてきた。足音はしない。まるで浮いてるみたいに滑らかに動いてた。距離が縮まるにつれて、そいつの体から何か黒い霧みたいなものが漂ってるのが見えた。俺は恐怖で声も出せず、ただじっと見つめてた。すると、そいつが急に立ち止まって、首を不自然に傾けた。まるで俺を観察してるみたいに。

その瞬間、車内に低い唸り声が響いた。どこから聞こえてくるのか分からないけど、体が震えるほどの不気味さだった。俺は慌ててエンジンをかけ直してアクセルを踏んだ。タイヤがキーキー鳴って、なんとかその場を離れた。バックミラーを見ると、そいつはまだそこに立ってて、じっとこっちを見てた。

家に着いた時、俺は汗だくで震えてた。すぐにドアをロックして、窓の外を何度も確認した。でも、あの夜以来、妙なことが続くようになった。夜中になると、家の周りで何か重いものが引きずられるような音がする。窓の外を見ても何もいないけど、明らかにそこに「何か」がいる気配がするんだ。

近所に住むおじいさんにその話をしたら、顔を真っ青にしてこう言った。「あんた、あの山の『ヤツ』に目を付けられたのかもしれん。あれは昔から山に住む猟師や行方不明者を見張ってるって言われとる。逃げても無駄だ。一度見られたら終わりだよ」って。

それから数週間、俺は毎晩悪夢にうなされた。夢の中であの異形の影が俺の家の周りを徘徊してるんだ。目覚めると、枕元に黒い染みみたいなものが残ってることもあった。現実と夢の境界が曖昧になってきて、俺はだんだん正気を失いそうだった。

ある夜、ついに我慢できなくなって、家を飛び出した。車に乗って山を下りようとしたけど、道の途中でまた霧が濃くなってきて、嫌な予感がした。そして、やっぱり現れた。あの異形の影が道の真ん中に立ってた。今度は逃げられない。車を止めて、俺はそいつと対峙するしかなかった。

近づくにつれて、そいつの黒い穴から何か囁くような声が聞こえてきた。言葉じゃない。ただの音の塊みたいで、頭の中に直接響いてくる。俺は耳を塞いだけど、無駄だった。そいつが腕を伸ばしてきた瞬間、俺は意識を失った。

目が覚めた時、俺は自分の車の中にいた。でも、場所が分からない。辺りは真っ暗で、車のエンジンは止まってた。時計を見ると、時間が3時間も飛んでた。体中が冷たくて、喉がカラカラだった。そいつはもういなかったけど、助手席に黒い染みが残ってた。まるでそこに座ってたみたいに。

それ以来、俺は山道を通るのをやめた。でも、あの異形の影はまだ俺を見てる気がする。夜になると家の外で物音がするし、時々窓の外に長い影が映る。誰かに話しても信じてもらえないだろうけど、俺は知ってる。あいつはまだそこにいて、俺を待ってるんだ。

最近じゃ、近所の犬が夜中に吠えなくなった。山から下りてくる風が妙に冷たくて、生臭い匂いが混じるようになった。俺はもう限界かもしれない。あの夜、山で見たものが何だったのか分からないけど、一つだけ確かなことがある。俺はもう逃げられないってことだ。

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