凍てつく夜の臨死の叫び

実話風

北の大地に広がる深い森。その静寂を切り裂くように、冷たい風が木々を揺らしていた。数年前のある冬の日、私は友人と共に山奥の小さな集落を訪れていた。そこは携帯の電波も届かず、雪に閉ざされた孤立した場所だった。私たちは、友人の祖父が遺した古い山小屋で一晩を過ごすつもりだった。

夕暮れが近づく頃、小屋に到着した。木造の建物は年季が入り、軋む床と煤けた壁が長い年月を物語っていた。暖炉に火を入れ、温かいスープをすすりながら、私たちは他愛もない話をしていた。だが、外の風が強さを増すにつれ、何か異様な気配が漂い始めた。窓の外を見ると、雪が猛烈な勢いで降り積もり、視界を白く染めていく。

夜が更ける頃、異変が起きた。暖炉の火が突然、青白い炎に変わったのだ。私は目を疑ったが、友人も同じものを見ていた。「風のせいだよ」と彼は笑ったが、その声にはどこか震えが混じっていた。それから間もなく、遠くから低い唸り声のような音が聞こえてきた。風の音にしては不自然で、まるで何かが近づいてくるような響きだった。

私は立ち上がり、窓に近づいた。ガラス越しに外を覗くと、雪の中を蠢く影が見えた。人のような形だったが、動きが異様にぎこちなく、時折四足で這うようにも見えた。恐怖が全身を貫き、私は友人にその光景を伝えようとした。だが振り返った瞬間、彼の姿が消えていた。小屋の中は私一人。暖炉の火は再び赤く戻り、静寂が重くのしかかってきた。

「どこに行ったんだ?」と叫んだが、声は壁に吸い込まれるように消えた。その時、背後で床が軋む音がした。ゆっくりと振り返ると、そこには友人が立っていた。だが、彼の目は虚ろで、口元が不自然に歪んでいた。「お前…大丈夫か?」と声をかけると、彼は一言も発せず、私に向かってゆっくり歩き出した。その足音がやけに重く、まるで別人のようだった。

慌てて後ずさりした私は、暖炉のそばにあった鉄の火かき棒を手に取った。「近づくな!」と叫ぶと、彼は立ち止まり、首をかしげた。そして、次の瞬間、耳を劈くような叫び声を上げた。その声は人間のものではなく、獣のような、怨嗟に満ちた咆哮だった。私は恐怖で足がすくみ、その場に崩れ落ちた。

彼が私に近づくにつれ、部屋の温度が急激に下がり始めた。息が白く凍り、指先が感覚を失っていく。目の前で彼の顔が歪み、皮膚が剥がれ落ちるように崩れていく幻覚が見えた。私は目を閉じ、ただ祈ることしかできなかった。すると、突然全てが静かになった。恐る恐る目を開けると、彼の姿は消え、小屋の中は元の静寂に戻っていた。

だが、安心する間もなく、窓の外から再びあの影が現れた。今度は複数。雪の中を這いずり、私を囲むように近づいてくる。私は逃げ場がないことを悟り、暖炉の火を見つめながら最期の瞬間を待った。どれだけの時間が過ぎたのかわからない。意識が遠のき、冷たさが全身を包み込んだ時、耳元で囁き声が聞こえた。「まだだ…まだ終わらない…」

気がつくと、私は病院のベッドにいた。医師によると、私は雪山で倒れているところを猟師に発見されたらしい。友人の行方はわからず、小屋には誰もいなかったという。私の体温は危険なほど低下しており、あと数分遅ければ助からなかっただろうと告げられた。だが、私は知っている。あの夜、何かが私を引きずり込もうとしたことを。そして、それはまだ私を追い続けているのかもしれない。

それからというもの、寒い夜になるとあの囁き声が聞こえるようになった。窓の外にはいつも影がちらつき、私を見つめているような気がしてならない。私はもうあの山には近づかないと誓ったが、心の奥底ではわかっていた。あの存在は、私がどこにいても見つけ出すだろうと。今でも、背筋が凍るような冷たい風が吹くたび、あの夜の恐怖が蘇るのだ。

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