静かな夜、校舎の古びた廊下に足音が響く。誰もいないはずの教室から、かすかなピアノの音が漏れてくる。主人公の教師は、好奇心からその音に導かれ、暗い教室の扉を開ける。室内は埃と古い机に満ち、窓からは月明かりがわずかに差し込むだけだ。しかし、ピアノの音は止まず、むしろ大きくなり、どこか不気味なメロディに変わっていく。教師は震えながらも進み、ピアノの前には誰もいないのに鍵盤が自ら動き出すのを見る。突然、背後に冷たい息を感じ、振り返ると、黒い影が一瞬だけ姿を現し、消える。次の日、教師は生徒たちにその話をすると、誰もが顔色を変え、「あの教室には、昔、事故で亡くなった音楽教師の霊が出る」と囁く。教師は真相を確かめようと、再び夜の学校に戻るが、今度は廊下で自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、追い詰められるように教室に引き戻される。そこで見たのは、ピアノの周りを囲む無数の黒い影と、かつての音楽教師の幽霊が、教師をじっと見つめる姿だった。恐怖に駆られた教師は逃げ出し、以降、二度とその学校には近づかなかったという。だが、噂によると、夜になるとまだピアノの音が聞こえ、時折、教師の姿が窓辺に浮かぶと言われている。
別のエピソードでは、学生時代に部活動を頑張っていた少女が主人公だ。彼女は陸上部に所属し、毎晩、校庭で練習をしていた。ある夜、いつものように走っていた彼女は、トラック脇の木陰から誰かを見た気がした。最初は気のせいだと思ったが、走るたびにその影が近づいてくるのが分かる。恐怖を感じながらも、部活を続ける彼女だったが、ある日、コーチから「最近、夜のトラックで変な噂を聞いた」と言われる。どうやら、昔、過労で亡くなった部員の霊が、夜の校庭を彷徨っているというのだ。少女はそれ以来、夜の練習をやめようとするが、なぜか足が勝手に校庭に向かい、トラックを走り続ける夢を見る。夢の中で、彼女は黒い影に追い詰められ、叫びながら目を覚ます。次の日、学校で彼女の机の上には、彼女の名前が書かれた古い部活の名簿が置かれていた。名簿の最後のページには、彼女の名前が赤いインクで追加されていた。彼女はその日から学校に行くのが怖くなり、やがて転校を余儀なくされたという。
さらに、図書室にまつわる話もある。ある生徒が、課題のために遅くまで図書室に残っていた時のことだ。静かな室内で本をめくっていると、棚の奥から「助けて」と小さな声が聞こえた。最初は風の音かと思ったが、声は繰り返され、だんだん近くから聞こえるようになる。生徒は恐る恐る棚の奥を覗くと、古い本の束の間に、埃まみれの写真が落ちていた。写真には、笑顔の生徒たちと、なぜか真っ黒な顔の人物が混ざっていた。その瞬間、図書室の電気が一斉に消え、足元で何かが動く音がする。慌てて逃げ出した生徒は、翌日、図書室に行くと、昨夜見た写真が自分の机の上に置かれ、写真の黒い人物の顔が自分の顔に変わっていたという。この話を聞いた他の生徒たちは、図書室に近づかなくなったが、時々、夜になると窓から「助けて」と呟く声が聞こえると言われている。
これらの話は、静岡県のどこかの学校で語り継がれている。どの話も、具体的な時代や人物は不明だが、聞く者の心に深い不安と恐怖を植え付ける。学校という身近な場所が、実は見えない何かに取り憑かれているかもしれないという想像は、誰にとっても耐え難い恐怖だ。夜の校舎、暗い廊下、静かな教室—そこには、過去の悲劇や未練が残り、訪れる者を引き込む闇が存在するのかもしれない。