異世界からの訪問者

怪談

ある夜、私は自宅の古い木造家で一人で過ごしていた。窓の外は静まり返り、ただ月明かりだけが部屋を淡く照らしていた。

突然、部屋の片隅から奇妙な音が聞こえた。それはまるで誰かが扉をこじ開けようとするような、カチカチと硬い音だった。私は恐る恐るその方向を見つめたが、そこには何も見えなかった。しかし、その音は止むことなく続き、やがては足音に変わった。

その足音はまるで空気を切り裂くように近づき、私の目の前に現れたのは一人の少年だった。顔は青白く、目は黒く光り、体からは冷たい風が吹き出していた。少年は何も言わず、ただ私を見つめていた。その目には、深い悲しみと、何かを求めるような強烈な意志が宿っていた。

私は震えながらも、何かを尋ねようとしたが、言葉が出てこなかった。すると少年はゆっくりと手を伸ばし、私の肩に触れた。あの瞬間、私の体は凍りつくように冷たくなり、視界が暗転した。

気が付くと、私は見知らぬ場所に立っていた。周りは灰色の霧に覆われ、足元には何もない、ただの空虚な空間だった。そこで私は、少年が生前住んでいた場所、そして彼がどうしても成仏できなかった理由を知った。少年は何年も前にこの家で何者かに殺され、その怨念からこの異世界に引きずり込まれていたのだった。

その世界では、時間の感覚がなく、ただ永遠に彷徨うしかない。私はその絶望を感じ、生きている喜びを再認識した。少年にとっては、私が彼の存在を認識したことで、彼の魂を解放するきっかけとなった。

目が覚めると、朝の光が部屋に差し込んでいた。少年はもうそこにはいなかったが、私の心にはその体験が深く刻まれていた。以来、私はあの異世界とこの世界の狭間で何かが繋がっていることを確信し、二度とあの恐ろしい体験を忘れることはなかった。

その日から、私は夜になると、窓の外を見つめ、もしもあの少年が再び訪れることがあったら、きちんと彼の物語を聞いてあげようと心に決めた。

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