山間の小さな村に住んでいた男が、ある晩、仕事から遅く帰ることになった。
夜も更け、月明かりだけが頼りの道を歩いていると、不意に背後から何かが近づいてくる気配を感じた。振り返る度に、何も見えない。それでも、足音は確かに聞こえ、男は心臓が口から飛び出しそうな感覚に襲われた。
道はどんどん暗く、深い森の中へと入り込んでいく。男は焦りながらも、自分の家まであと少しだと自分に言い聞かせた。しかし、その時、目の前に突如として現れたのは、一人の女の姿だった。彼女は白い着物を着ており、長い黒髪が風に揺れていた。
「助けてください…」と彼女は低い声で呟いた。男は一瞬立ち止まったが、その直後、何かが彼の足元を掴んだ。見下ろすと、そこには何の足も無く、ただ黒い影だけが蠢いていた。恐怖に駆られ、男は叫びながら走り出した。
家にたどり着き、ドアを閉めると、外の音はぴたりと止んだ。しかし、その夜、男は窓の外に何かが見える気配を感じ、夜通し眠れなかった。翌朝、外を見ると、昨夜通った道の入り口に、かつて村で行方不明になったとされる女の遺体が見つかったという噂が村中に広まった。
それからというもの、男は夜になると必ず家に籠もり、二度とあの山道を通らなくなった。しかし、時折、窓の外から聞こえる足音が、彼をその夜の恐怖に引き戻すのだった。