大阪の繁華街から少し離れた場所、住宅街が広がるエリアには、通勤や通学に便利な地下道がいくつか存在する。それらの地下道は、昼間は人通りも多く安心して通ることができるが、夜になるとまるで別の世界に変わる。
ある秋の夜のこと、私はその地下道を一人で歩いていた。仕事が遅くなり、バスを逃してしまったため、知っている唯一の近道を通るしかなかったのだ。時刻はすでに午後10時を過ぎ、街灯の光が時折点滅し、薄暗い道を照らすだけだった。
地下道の入口に差し掛かると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。足元を照らす蛍光灯の明かりが弱々しく、時折、何かの影が揺れるように見えた。初めてのこの時間帯の通行だったが、早く家に帰りたかったので、深く考えずに進んだ。
道の途中、妙な感覚に襲われた。何かが私を監視しているような、背中に冷たい視線を感じる気配があった。振り返る勇気もなく、ただ前を見て歩き続けた。
そして、地下道の中心部に差し掛かったとき、突然、蛍光灯が一斉に消えた。闇の中、心音が耳元で響くほど静寂が訪れた。その時、何かが私の足元を擦り抜けた感触と、微かな足音が聞こえた。
焦りに駆られ、何も見えない中でもスマートフォンのライトを頼りに進もうとしたが、手が震えてうまく操作できない。そんな中、遠くからかすかな笑い声が聞こえた。子供の声のような、しかしどこか不気味な響きを持つ笑い声だった。
慌てて歩を速めようとしたその瞬間、何かが私の腕を掴んだ感触があった。衝撃で叫び声を上げ、力任せに振り払うと、蛍光灯がまた点灯した。周りを見渡すが、そこには誰もいない。ただ、床に落ちていたのは、古びた人形の片腕だった。
それから数歩進んだ先で、地下道の出口が見えた。外に出ると、夜風が冷たく感じられ、心地よかったが、先ほどの恐怖は強烈に残っていた。家に帰ると、すぐに部屋の明かりを全て点け、テレビを付けて、一人でいる恐怖から逃れようとした。
翌日、地下道に戻ってみたが、昨夜の出来事を示す何も残っていなかった。あの人形の片腕も見つからず、まるで夢だったかのように。しかし、それからというもの、夜に一人で地下道を通ることはできなくなった。暗闇の中から、何かが私を見つめているような、そんな感覚がいつまでも付きまとうのだ。