夜の工場で聞こえる足音

怪談

宮崎県の片隅にある小さな町に、一つの工場が建っていた。その工場は主に電子部品の製造を行っており、夜間も稼働するシフト制で運営されていた。

ある晩、深夜勤務のシフトに就いていた若い男性は、一人で作業を進めていた。工場内の照明は一部のエリアだけが点灯しており、その他の部分は暗闇に包まれていた。彼はヘッドホンをして音楽を聴きながら仕事をしていたが、ふと音楽を止めて静寂に耳を澄ますと、どこからか不規則な足音が聞こえてきた。

最初は誰かが別のエリアで作業しているのかと思ったが、深夜勤務の際は彼一人しかいないことを思い出し、寒気が背中を走った。足音は徐々に近付いてくるようで、そのリズムは決して人の歩みではなかった。まるで足を引きずるような、あるいは何かが這うような不気味な音だった。

彼は恐る恐る周囲を見回したが、視界に入る範囲には誰もいなかった。恐怖に駆られ、再びヘッドホンをつけて音楽を大音量で流すことでその音をかき消そうとした。しかし、その足音は音楽のリズムに合わせるかのように、より鮮明に聞こえてくるようになった。

彼は耐え切れず、管理室に駆け込んだ。そこには監視カメラの映像が映し出されており、彼は画面をチェックした。すると、自分がいるエリアのはずれ、暗闇の端から何かが動くのが見えた。それは人影ではなく、もっと異形のものだった。

翌朝、彼は同僚に昨夜の出来事を話したが、誰も信じなかった。工場の管理者も「おそらく疲れていたんだろう」と片付けた。しかし、その夜から工場内では不思議な現象が続いた。機械が勝手に動き出したり、作業中に冷たい風が吹き抜ける感覚があったりした。

数週間後、新たに設置された高感度の監視カメラが、深夜の一瞬を捉えた。映像には、何かが這うように動く影が映っていた。そして、その影は明らかに人間のものではなかった。

工場は一時閉鎖され、調査が行われたが、結局何も発見されなかった。しかし、その工場は二度と夜間の稼働を再開することはなかった。そして、かつての深夜勤務の男性は、精神的に深く傷つき、二度とその町に戻ることはなかった。

今でも、その工場の夜は静寂に包まれながらも、どこからか足音が聞こえるという噂が地元ではささやかれている。

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