夜更けの廃校

心霊体験

青森県の片田舎、かつては子供たちの笑い声が響いていた小学校が、今は寂しい廃校となって残っていた。それは今から数年前の冬の夜、ある男がその廃校に足を踏み入れたことから始まった。

寒さに身を震わせながら、男は廃校の扉をこじ開けた。内部は暗く、埃とカビの匂いが鼻をつく。懐中電灯の光を頼りに進んでいくと、廊下はまるで終わりのないトンネルに見えた。

「ここに来たのは仕事のためだ」と、男は自身に言い聞かせた。彼は不動産の調査員で、この廃校に残された物資の確認と、建物の状態を報告するのが仕事だった。しかし、何かが違う。足音が響かない。まるで自分の存在がこの場所では許されないかのようだった。

一階を一通り見て回った後、二階に上がる決意をする。階段を登るたびに、どこからともなく聞こえるかすかなささやき声が男を焦らす。だが、男はそれを無視しようと必死だった。

二階の教室の一つに入ると、そこには古い机や椅子が無造作に置かれていた。その中の一つ、窓際に位置する机の上に、開いたままのノートがあった。男が近づいて見ると、そこには子供の字で「先生、遊びましょう」と書かれていた。

その瞬間、背後から冷たい風が吹きつけ、男は振り返った。だが、そこには何もなかった。ただ、部屋の隅に立つ黒板が、薄暗い電灯の光で少しずつ浮かび上がるように見えた。その黒板には、何かが書かれた形跡がある。男は恐る恐る近づき、黒板に手をかざした瞬間、文字が現れた。「帰らないと、遊ばせてもらえないよ」

恐怖で足が竦む中、男は逃げることを決意した。しかし、階段を降りようとした時、下から聞こえる子供たちの笑い声。明らかにこの廃校に誰もいないはずなのに、その声はますます近づいてくる。

男は一目散に外へ出た。外は闇に包まれ、風が強くなっていた。心臓が破裂しそうなほどの恐怖に駆られながら、男は車に飛び乗り、慌ててエンジンをかけた。

しかし、エンジンがかからない。バッテリーが上がっているのか、何かが邪魔をしているのか。男は再び廃校を見た。そこには、窓に何かが映っている。子供たちの顔が、笑いながら見つめる。

男はもう一度エンジンを掛けようとした瞬間、突然エンジンが始動し、男はその場を逃げ出した。その夜、男は二度とその廃校には近づかなかった。

後日、調査のために再び訪れた同僚から連絡が来た。彼らは二階の教室で同じノートを見つけたが、何も書かれていなかった。それどころか、黒板も何も書かれてはいなかったという。ただ、彼らもまた、聞こえるはずのない子供たちの声を聞いたと報告した。

今でも、青森のその廃校では、夜更けに子供たちの笑い声が聞こえるという。

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