闇に引きずり込まれる恐怖

体験談

ある冬の夜、寒さが骨の髄まで染み渡るような深夜、男は徳島の山道を歩いていた。目的地も定めず、ただ彷徨うように足を進めていた。月明かりだけが頼りだったが、その光も雲に遮られ、周囲は漆黒の闇に包まれていた。

男は、ふと気づいた。自分の足音以外に、何かが後ろからついてくる音がする。振り返っても何も見えないが、その音は確かに存在した。最初は自分の心臓の音かと思ったが、次第にそれが別の何かであることを認識せざるを得なかった。

道の終わりには、古びた神社があり、そこで一休みしようと考え、男はその方向へ向かった。神社の鳥居を潜ると、突然、後ろの音が止んだ。安堵した彼は、石段に座り込む。

しかし、安堵は一瞬で恐怖に変わった。視線の先にある古い社殿の扉が、ゆっくりと開いたのだ。そこから漂う冷たい風とともに、見えない何かが彼の周りを漂っているかのような気配がした。

男は恐る恐る立ち上がり、社殿の中を覗き込んだ。そこには、何もなかった。ただ、空虚な空間が広がっているだけだった。だが、なぜかその空虚さが、彼の心を打ち据えた。

その時、声が聞こえた。どこからともなく、囁くような、しかし明瞭な声だった。「ここに留まりなさい……」と。男は逃げ出そうとしたが、足が動かなかった。見えない手が彼の身体を引き留めているかのようだった。

恐怖で頭が真っ白になる中、男は気を失った。

次に目覚めた時、男は病院のベッドの上にいた。医師によると、男は山で倒れていたところを発見されたという。だが、男が覚えているのは、神社のあの冷たい風と、引き留められた感覚だけだった。

後日、男はその神社を再訪した。しかし、そこには何も残っていなかった。ただ、石段だけが寂しく佇んでいた。ただ、どこからともなく聞こえる囁き声が、男の耳に残っていた。「また、ここに来なさい……」と。

その後、男は何度も夢に見るようになった。夢の中で彼は再び神社に引きずり込まれ、永遠にその闇の中で彷徨うのだ。そして、毎回同じ言葉を聞く。「ここに留まりなさい……」

男はその恐怖から逃れることができず、最終的には精神的な崩壊を迎えたと言われている。それ以来、その神社の周辺では不思議な現象が多く報告されるようになった。闇が人を引きずり込む恐怖は、時として現実よりも深く、そして永遠に続くものなのかもしれない。

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