夜の山道で出会ったもの

実話風

ある秋の夜、私は仕事で疲れ果て、帰宅の道を急いでいた。山に囲まれた田舎町の道は、夜になると街灯も少なく、闇に包まれる。車を走らせながら、ふと視線を道の端にやった瞬間、何かが見えた。

それは人間の形をしていたが、異様に長い腕を振りながら、道の端を歩いていた。驚いた私はブレーキを踏み、車を止めた。エンジンを切ると、周囲は静寂に包まれ、ただ風の音だけが聞こえる。恐る恐る車から降り、道の端に近づいてみたが、その姿はもう見えなかった。ただ、そこには一本の古い木があり、その枝が風に揺れていた。

その夜、家に帰ってからもその異様な存在が頭から離れず、気になって調べてみると、この地域では古くから「手長鬼」という妖怪の伝説があった。夜道で出会うと、人を引きずり込んでしまうという恐ろしい話だった。

その日から、私は夜道を走るのが怖くなり、なるべく早く家に帰るようにした。ある晩、再びあの場所を通らざるを得なくなったとき、私は車のライトを強く照らし、注意深く進んだ。すると、またもやあの人影が見えた。だが、今度は遠くに立ち止まっていた。

私は車を止めずにスピードを上げて通り過ぎたが、その時、後ろから聞こえたような気がしたのは、何かが地面を引きずる音だった。恐ろしくなって後ろを見ると、何もなかったが、心臓はバクバクと鳴り響いていた。

それから何日か経ち、友人から聞いた話だが、その夜の後、近所の老人が夜道で行方不明になったという。手がかりは何もなく、ただその老人が最後に見られたのが、あの道の近くだったとだけ言われた。

以来、私は夜の山道を通ることはなくなった。ただ、時折、あの長い腕を振るう姿が夢に現れる。そして、夢の中でその妖怪が私の手を掴む瞬間、私は必ず目を覚ます。

今でも、夜の静けさの中で風が木を揺さぶる音を聞くと、あの恐ろしい夜のことを思い出し、背筋が凍る思いがする。手長鬼の伝説は、ただの話ではなかったのかもしれない。

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