臨死の瞬間に見たもの

体験談

夜も更けた東京都のとある病院の一室。窓の外ではビル群の光が夜空を縁取っていたが、部屋の中は静寂に包まれ、病床の男は微かに息を引き立ていた。

その男は最近、心臓に大きな問題を抱えていた。医師たちは全力を尽くしたが、彼の体力は限界に達しようとしていた。男は意識がぼんやりしながらも、恐れを抱き続けていた。死とは何か、死後の世界とはどんなものなのか。そんな思いを胸に、男は静かに目を閉じた。

意識が遠のく中、男は光を見た。それは最初、遠くから近づいてくる小さな点だったが、徐々に大きくなっていき、やがて彼を包み込むほどの強烈な光となった。光の中には何かがいた。形は見えないが、存在を確かに感じる。それは温かく、安心感を与えた。しかし、その安堵は一瞬で恐怖に変わった。

光の中から無数の声が聞こえてきた。最初は心地よかったが、徐々にその声は混乱に満ち、苦しみや絶望の叫び声に変わっていった。男はその声に引きずり込まれるような感覚を覚えた。視界が歪み、次第に彼は自分が引き裂かれるような痛みを感じ始めた。

男の意識は現実とその光の世界の間を行き来し、どちらも現実であるかのような錯覚に陥った。戻ってきた現実では、医師たちが必死に蘇生措置を試みていた。心臓の音が再び打つ音が聞こえ、男は一時的に意識を取り戻した。

しかし、もう一度光の中へ引き戻される感覚が襲った。今度はそこにいた存在が、男の心の奥底に潜む恐れや後悔をすべて見透かしているかのように感じた。それは過ち、罪悪感、そして失われた夢の断片だった。彼はそれらから逃れようとしたが、光は彼を許さず、逆にその恐怖を増幅させていた。

医師たちの声が遠くなり、再び男は光の世界に引き込まれる。それはもう安らぎではなく、無限の苦痛の渦だった。叫び声が混ざり合う中、男は自身の存在が分解される感覚を味わい、自分の魂が引き裂かれる恐怖を体験した。

そして、突然、すべてが静寂に包まれた。光が消え、男は再び病院のベッドに横たわっていた。死の直前で引き戻された彼は、生き延びた喜びよりも、光の中で見たものへの恐怖を覚えていた。医師たちは彼が生き返った奇跡を祝ったが、男にはその祝福が虚しく響いた。

その後、男は何度もその光を見る夢を見るようになった。毎晩、恐怖と引き裂かれる痛みが彼を襲い、心臓の弱さは体だけでなく、精神にも深い傷を残した。男はそれ以降、死を恐れるどころか、死に至る全ての過程を恐れるようになった。死後の世界がどうなるのか、誰も知らない。だが、男はそのほんの一片を垣間見たことで、永遠の恐怖を抱えるようになったのである。

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