佐賀県の片田舎にある小さな小学校は、数十年も前に閉校となった。周囲の人々は、その学校が閉じられた理由をほとんど知らなかったが、地元の噂では、その地に住む者たちの間で語り継がれる怪奇現象が原因だと言われていた。
その学校は、古い木造建築で、窓枠やドアは朽ち果て、塗料は剥げ落ちていた。夜になると、遠くからでも見えるほどの異様な光が時折、その廃校から漏れ聞こえるという。
ある夏の夜、好奇心旺盛な若者が友人たちとその廃校に忍び込んだ。彼らは冒険心からか、あるいは単なる無知からか、そこに潜む恐怖を軽んじてしまった。
校舎に入ると、まず感じたのは冷たい空気だった。夏の暑さとは裏腹に、まるで冬の寒気がその場所に籠もっているかのようだった。そして、何よりも気になったのは、どこからともなく聞こえてくる子供の笑い声だった。
「誰かいるのか?」と彼の一人が声をあげたが、返事はない。ただ、その声はどんどん大きくなり、近づいてくるかのように感じられた。
彼らは教室を一つ一つ調べていった。そこには、使い古された机や椅子が無造作に放置され、壁には子供たちの絵が残っていた。しかし、どの絵も無気味なほど現実味があり、見る者を不安にさせた。それらの絵には、全て同じ少女が描かれていた。黒い髪をした、悲しそうな目を持つ少女だ。
クラスの一つで、彼らはさらに驚くべきものを見つけた。そこには黒板に「帰らないで」という言葉がチョークで書かれていた。鮮やかな赤い字で、その下には、先ほど見た少女の絵がまた描かれていた。
一行のうちの一人、特に敏感な神経を持っていた者が、突然その場に座り込んで泣き出した。「帰りたい、ここから出たい」と言う彼の声は震えていた。
彼らは急いでその場を離れようとしたが、出口に着くと、扉は固く閉ざされ、まったく開かなかった。パニックに陥った一行は、必死で窓を叩き、外に向かって叫んだが、救助は来なかった。
その夜、奇妙なことが続いた。窓から見えるはずの月明かりが突如として消え、代わりに、何者かの影が窓を通り過ぎていくのが見えた。そして、子供の足音が廊下を走る音が、まるで追いかけてくるように彼らの後を追ってきた。
恐怖のあまり、彼らは教室に戻り、そこで夜を明かすことにした。だが、眠ることはできなかった。夜が明けると、扉は奇跡的に開くようになっていた。
その後、彼らは二度とその場所には近づかず、友人たちの間でこの体験は恐ろしい秘密として共有された。しかし、彼らが帰ってきた翌日から、一人、また一人と原因不明の病に冒され、最終的にはそのグループの全員が、何らかの形でその恐怖の代償を払うこととなった。
地元では、この廃校が閉鎖された時、事故で亡くなった少女の霊がその地に留まり、誰かを引き留めようとしていると言われている。それはまるで、彼女が永遠に遊び相手を求めているかのような、悲しくも恐ろしい物語だった。