秋田県のとある山奥に位置する小さな村、その村には今から10年前まで使われていた廃校があった。
ある秋の夕暮れ、私は友人と共にその廃校を訪れることにした。日が沈むにつれ、周囲は急速に闇に包まれていった。廃校の入り口は錆びついた鉄格子で覆われていたが、その隙間から中を覗くと、冷たい風が頬を撫でるように通り過ぎた。
「ここって、ホントに人がいないの?」
友人の声が震えていた。私も不安を感じながらも、好奇心に駆られて中に入ることを決めた。
校舎内は静寂に満ちていた。廊下の床は埃に覆われ、足を踏み出す度に小さな音が響いた。教室の一つに入ると、机や椅子はそのまま残されていたが、窓は割れ、風が吹き込むとカーテンが幽霊のように揺れていた。
「ここで何かあったんだって?」
私の質問に友人が答えた。「うん、先生が生徒の前で突然倒れて、そのまま亡くなったんだって。原因は不明で…」
その瞬間、我々の後ろで何かが倒れる音がした。振り返ると、何もない。だが、確かに何かが動いた気配があった。
教室から出て、次の部屋へ移動すると、そこはかつて音楽室だった場所だった。ピアノの上には埃が積もり、鍵盤は触れられることもなく静かに佇んでいた。
「ピアノ、弾いてみよう」と友人が言い、ゆっくりと鍵盤に手を伸ばした。だが、その瞬間、ピアノから何の音も出なかった。代わりに、子供の笑い声が部屋中に響いた。
「何!?」
私たちは驚き、慌てて部屋を出た。次の瞬間、廊下の奥から小さな足音が聞こえてきた。私たちはそれを追いかけるように、しかし怖くて逃げるように走り出していた。
廃校の最上階に辿り着いた時、そこは以前とは全く違う空間だった。窓からは明るい月光が差し込み、部屋の中央には一人の子供が座っていた。
「おかえりなさい」とその子供は言った。だが、その声はどこか遠く、現実感がなかった。
「さあ、一緒に遊ぼうよ」と言われた瞬間、私たちは恐怖で身動きが取れなくなった。
それから数分後、気が付くと私たちは廃校の外にいた。友人は青ざめ、震えていた。
「もう、二度と来ない」と友人が言った。その言葉に私も強く同意した。
帰り道、後ろから何かが見つめているような気がして何度も振り返ったが、そこには何もいなかった。しかし、その夜、私は夢の中で再びその廃校に戻り、子供と一緒に遊んでいる自分を見た。目覚めた時、自分の声で叫んでいた。
それ以来、秋田のその廃校は私の心に深く刻まれ、夜な夜な恐怖がよみがえるのだ。