夜の浜辺に響く謎の声

心霊体験

沖縄のある小さな村に、海に面した古い家があった。

その家はかつて繁栄していたが、戦争の傷跡を残し、今は一組の老夫婦だけが住んでいた。彼らは毎晩、海を見つめるようにして過ごしていた。ある夜、孫がその家に泊まりに来た。

夜が更け、家族は就寝する準備を始めたが、孫はなぜか興奮して眠れず、窓辺で海を眺めていた。すると、遠くから不思議な声が聞こえてきた。それはまるで数百人の声が重なり合ったような、しかしどこか悲しげな旋律だった。

「おばあちゃん、この声、何?」

老婆はその声を聞くと、少し顔をこわばらせた。

「あれはね、戦争の時、海に沈んだ兵士たちの声だと言われてるんだ。夜になると、浜辺に集まってくるのさ。」

孫はその説明にぞっとしたが、好奇心から外に出てみることにした。月明かりに照らされた浜辺は静寂に包まれていたが、確かにその声は聞こえていた。近づくにつれて、その声は次第に大きくなり、まるで自分を呼んでいるかのようだった。

浜辺に立つと、海面から立ち上る霧の中に、ぼんやりとした人影が見えた。見るからに戦時中の制服を着ているようで、しかしその顔は見えない。孫は恐怖で身がすくんだが、逃げることができずにその場に立ち尽くした。

突然、その人影の一人がこちらに手を伸ばし、何かを言おうとした瞬間、強い風が吹き、霧が一斉に散った。その瞬間、すべての声が消え、浜辺は再び静寂に戻った。

翌朝、孫は祖父母に昨夜のことを話すが、彼らはただ静かに聞くだけだった。それから数日、孫は毎晩同じ声を聞いた。そして最後の夜、再び浜辺に出た孫は、今度は幻ではなく、明確に見える兵士たちの姿を見た。彼らはまるで何かを伝えようとしているかのように、孫の目の前に立っていた。

「助けて」と、一人が囁くように言った。その声は少年の心に深く突き刺さり、恐怖と哀しみが一体となった。

数年後、成長した孫はその体験を忘れられず、地元の歴史を調べるようになった。そこで知ったのは、戦争中、この浜辺に多くの兵士が集まってきたこと、最後には海に沈んだという悲しい事実だった。彼らの魂が今もなお、救いを求めて彷徨っているのかもしれない。

その話は今も語り継がれ、夜の浜辺に立ち入ることを恐れる人が増えた。だが、孫はその夜の恐怖を乗り越え、兵士たちの声を聞くことで、彼らの魂が安らぐ日が来ることを信じ続けている。

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