闇の向こうの声

実話風

夜の闇が深まる頃、ある男が栃木県の山道を車で走っていた。彼は仕事で疲れ果て、早く家に帰りたかった。だが、その道はいつもより静かで、まるで世界から取り残されたかのような気分にさせられた。

突然、彼の車のエンジンが止まった。周囲には街灯もなく、月明かりだけが頼りだった。男は車を降り、ボンネットを開けて原因を探ろうとしたが、何も見つからなかった。携帯電話も圏外で、助けを呼ぶこともできなかった。

男は辺りを見回すと、少し離れた場所に古びた小屋を見つけた。もしかしたら誰かが住んでいるかもしれないと思い、そこに向かった。扉は施錠されておらず、男は恐る恐る中に入った。小屋の中は埃だらけで、長い間誰も使っていない様子だった。

その時、男は何かが背後にいる気配を感じた。振り返ると、そこには何もいなかったが、奇妙な息づかいが聞こえた。心臓が早鐘を打つ中、彼は急いで小屋の外に出ようとした。

外に出ると、辺りは静寂に包まれていたが、遠くから子供の声が聞こえてきた。男はその声に引き寄せられるように、茂みの奥へと歩いていった。

そこにあったのは、古い墓地だった。墓石の間から子供の声が聞こえ、男はその声の源を探した。すると、一つの墓の前に立つと、その声がはっきりと聞こえた。「お母さん、来て…」

男は恐怖で身がすくんだが、好奇心から墓を調べた。墓石には「幼い命と共に」といった文字が刻まれていた。その瞬間、男の視界が暗くなり、意識が遠のいていった。

気がつくと、彼は病院のベッドに横たわっていた。医師によれば、男は小屋で倒れていたところを発見され、救急搬送されたとのことだった。男はその体験を語り、特に墓地での出来事を詳しく説明した。

しかし、誰もその墓地の存在を知らなかった。地元の人々に聞いても、そんな場所はないと言うばかりだった。男は医師から「臨死体験だったかもしれない」と告げられたが、その声と感覚は今も鮮明に覚えているという。

以来、男は夜の静けさに恐怖を感じるようになった。特に、子供の声が聞こえると、全身が震え、夢の中であの墓地に戻ってしまう。闇の向こうから響く声は、今も彼を追い続けている。

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