闇に潜むもの

実話風

怪談の語り手として、鳥取県の山奥に住む一人の老人から聞いた話をお伝えします。

今から数十年前、鳥取県のある小さな村でとある家族が住んでいました。父親、母親、そしてひとりの息子が平和に暮らしていました。村は山に囲まれ、夜になると静寂が村全体を包み込む場所でした。

ある冬の夜のこと、強い雪が降り積もり、村は雪に閉ざされました。その夜、息子は何かが窓の外を覗いている気配を感じました。最初はただの幻覚だろうと考え、布団を頭からかぶって眠りに就こうとしました。しかし、その気配は次第に強くなり、息子は恐る恐る布団から顔を出し、窓の方を見ました。

そこには、人の形をした影が浮かんでいました。影はまるで自分を見つめているかのように、目鼻立ちがはっきりした黒い輪郭で、ただそこに立っていました。息子は恐怖のあまり声も出せず、ただ震えながらその影を凝視していました。

次の瞬間、影は消えました。しかし、その夜の恐怖はまだ始まったばかりでした。息子がどうにか寝ようとすると、今度は部屋の中に冷たい風が吹き込んできたのです。それは暖房が効いている部屋の中にあって異常なほど冷たく、まるで誰かが部屋に入ってきたかのような感覚でした。

息子は勇気を出して部屋を見回しましたが、誰もいないはずの部屋に、見えない何かがいる気配を感じました。そして、今度は足音が聞こえました。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる足音。それは木の板の上を歩く音で、息子はその音が自分の寝床まで来るのを感じました。

恐怖に耐えかねて、息子は声を上げて叫びました。すると、すぐに両親が駆けつけ、部屋を調べましたが、何も見つかりませんでした。しかし、その夜から奇妙なことが起こり始めました。

まずは家の中のものが勝手に動くようになったのです。食器が勝手に落ち、椅子が動き、まるで誰かがそこにいるかのように振る舞いました。さらに、家族全員が不思議な夢を見るようになりました。夢の中では、その影が追いかけてくるのです。

ある晩、父親が村の古老に相談を持ちかけました。古老は、村の近くにある古い墓地から出てきた妖怪ではないかと推測しました。その墓地は、かつて戦国時代に戦死した兵士たちが埋葬された場所で、何かしらの怨念がまだ残っているのかもしれないと。

対策として、古老は祈祷師を呼び、家に来てもらうことにしました。祈祷師は家全体を清め、特に息子の部屋に重点を置いて儀式を行いました。祈祷師が護符を置き、呪文を唱えると、奇妙な現象は少しずつ収まり始めました。

しかし、完全に消えることはありませんでした。家族はその後も時折、見えない何かが家の中を歩いている気配を感じることがあったと老人は言いました。そして、息子はあの夜の恐怖を決して忘れず、大人になってもその話を人にするたびに震え声で語ったそうです。

この話は、鳥取県の山奥で今から数十年前に実際に起こったとされています。闇に潜むものの存在は、時として人間の心の奥底に眠る恐怖を呼び覚ますのです。

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