兵庫県のある山間部に、一軒の古い家が建っていた。その家は、長い間誰も住んでいなかったため、周囲の自然に取り込まれるように朽ち果てていた。ある日、若いカップルがその家の近くでキャンプをすることにした。
夜が更け、二人は焚き火を囲んで話をしていた。すると、遠くからかすかな足音が聞こえてきた。最初は動物だろうと思ったが、その足音は不規則で、まるで何かが地面を這うような不気味な音だった。
「何か来る?」と彼女が不安そうに尋ねると、彼は「きっと動物だよ」と笑って答えた。しかし、その足音はだんだんと近づいてきて、二人は思わず笑顔を消した。
突然、キャンプサイトの端から何者かが現れた。それは人でも獣でもなく、目も鼻もなく、ただ黒い影のような姿をしていた。二人は驚愕し、思わず声を上げたが、その影は黙って二人を見つめていた。
「逃げよう」と彼が言った瞬間、影は一瞬で彼らの間に割って入り、二人を引き離した。彼女はパニックに陥り、泣き叫びながら森の中に逃げ込んだ。彼は彼女を追おうとしたが、影が彼の体を絡め取るようにして動きを封じた。
その夜の恐怖は、彼女が森の奥深くで見つけたものによって一層深まった。そこには、何百もの小さな人形が木に吊るされ、風に揺られていた。それぞれの人形は、表情が歪み、まるで苦悶の表情を浮かべていた。彼女はそれを見た瞬間、心が凍りつくような恐怖を感じた。
「助けて!」と叫びながら森を駆け抜け、何とかキャンプサイトに戻った時、彼は既にそこにいなかった。ただ、焚き火の残り火だけが赤々と燃えていた。彼女は震えながら朝までその場に座り込んでいたが、その間ずっと、何かが彼女を見守っているような視線を感じていた。
翌朝、彼女は警察に助けを求めたが、彼の姿はどこにも見つからなかった。地元の人々は、その場所に古くから伝わる妖怪の話を思い出し、彼女に「ここは危険な場所だ」と言った。
その妖怪は、夜の闇に潜み、旅人や住民を引きずり込むとされる。特に、二人でいる者を狙い、分断することで恐怖を増幅させるという。
それから数年、彼女はその恐怖体験を忘れられず、毎晩、夢の中であの黒い影を見る。そして、彼女はその土地から逃げるように引っ越したものの、どこへ行ってもあの足音や人形の姿が脳裏から離れることはなかった。
この話は、兵庫県の山奥に今も残る、闇に潜む妖怪の恐ろしさを物語っている。誰もが見知らぬ土地での夜を過ごす際に、この恐ろしい体験を思い起こすべきだろう。