闇からのささやき

怪談

ある日の夕暮れ時、私は福岡県の片田舎で暮らす友人を訪ねていた。山々に囲まれた静かな場所で、日が沈むと辺りは深い闇に包まれる。友人は笑いながら、「ここは都会とは違うよ。夜は本当に静かだから、夜中に音なんて聞こえたら驚くよ」と言った。

その晩、私は友人の家で泊まることにした。寝床につくと、窓の外は真っ暗。都会の喧騒から遠く離れたその場所では、風の音さえもが耳に心地よく響く。だが、深夜、私は奇妙な感覚に目を覚ました。辺りは静寂に包まれているはずなのに、何かが私を呼んでいるような、低く響くささやき声が部屋の中に満ちていた。

心臓が早鐘を打つ中、私は恐る恐る辺りを見回した。だが、何も見えない。声は続いているのに、出どころはわからない。恐ろしさに身震いしながら、布団をかぶり直し、耳を塞いだ。だが、その声は布団を通しても聞こえる。

翌朝、友人にそのことを話すと、彼は少し表情を曇らせ、「この辺りには古い話があるんだ。昔、このあたりで死んだ人が、夜になると自分の名前を呼んでいるってさ」と言った。その話を聞いて、私は昨夜のささやきが誰かの臨死体験の記憶かもしれないと考えた。

その日の夜も私は友人の家に泊まった。先夜の恐怖を忘れようと、早々に眠りについたが、またしても深夜に目が覚めた。ささやき声は今夜もあった。だが、今回はその声が少しずつ近づいてくるような感覚があった。

恐怖に耐えかねた私は、部屋を飛び出し、友人を起こした。彼もまたその声を聞いたようで、顔色が悪くなっていた。「この家に何かがいるんだ」と彼は言った。

私たちはその夜、部屋を出て外で過ごすことにした。夜空を見上げながら、私たちはそのささやきが何なのかを話し合った。友人は、「この土地に来た人間はみんなが一度は経験するらしいんだ」と言った。

翌日、地元の古老に話を聞きに行った。古老は笑みを浮かべながら、「あの声は死にゆく者の魂が残したものだ。その声は生きている者に警告するんだ。『この場所は静かだが、決して安全ではない』とね」と語った。

それから数日、私はその土地を離れたが、夜中に聞こえたささやき声は今でも鮮明に思い出せる。あの体験は私の心に深く刻まれ、時折、静かな夜にその声が再び聞こえてくるのではないかと恐れる。福岡県のその山奥の村で、何かが私たちに警告を発していたのかもしれない。

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