闇に消える人影

心霊体験

夜の訪れと共に、街は静寂に包まれる。だが、その静けさの中に潜む恐怖を知る者は少ない。茨城県の、とある田舎町に住む私は、数年前のある出来事を今でも鮮明に覚えている。

私は当時、夜勤の仕事に就いていた。月明かりがなければ、真っ暗闇に包まれるような道を、自転車で帰宅するのが日常だった。ある晩、特に寒かった夜、空気が張り詰める中を進んでいると、見慣れた道の先に、人影が見えた。

その人影は、遠くから見て、ただ立ち止まっているように見えた。だが、近づくにつれて、その姿は少しずつ不自然さを帯びてきた。まるで時間が止まっているかのように、動きがなく、ただ静かに佇んでいるのだ。

「大丈夫ですか?」と声を掛けようとした瞬間、影は突然、私に向かって一歩踏み出した。だが、その動きは滑らかではなく、まるでビデオの一コマずつ進むようなぎこちなさがあった。恐怖が一気に私の背筋を走り抜けた。

慌てて自転車を漕ぐスピードを上げ、通り過ぎようとしたその時、背後から聞こえたのは、低く、しかしはっきりとした声だった。「待って…」と。だが、振り返ると、そこには何もなかった。ただ、冷たい風が吹き抜けるだけだった。

その後も何度か同じ道を通ったが、あの人影は二度と現れなかった。しかし、その夜の恐怖は、私の心に深く刻まれ、夜の闇を恐れるようになった。特に、月明かりがささやかな光しか届けない夜は、まだあの場面がフラッシュバックする。

友人にこの体験を話すと、彼らも似たような話を聞いたことがあると言った。どれも、夜の闇の中で見た、動きのない、あるいは不自然な動きをする人影の話だった。そして、その人影を見た人々は、何かを失うか、心に深い傷を負うとされている。

この話を聞いた後、私は夜の帰り道に、何かが私を見守っているような気がしてならない。もしかしたら、あの夜の人影は、私に警告を与えていたのかもしれない。以降、私は夜道を急ぐようになり、決して一人では歩かなくなった。だが、どうしても、その影の持つ意味や目的を知りたいという衝動に駆られることがある。

今でも、あの夜の感覚を思い出すと、寒気がする。あの人影は、ただの幻覚だったのか、それとも何か別の存在だったのか。それは、永遠に謎のままだろう。

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