冬の夜は特に長く感じられる。寒さが骨の髄まで染みわたり、闇が深い静けさを引き立てる。福井県のとある山奥に位置する、廃校となった小学校は、その夜も例外ではなかった。
閉鎖されてから数年が経つその学校は、地元の人々からは誰も近寄らないようにされていた。理由はただ一つ、そこに残る数々の怪異現象。
ある晩、好奇心に駆られた若者が、友人と共にその廃校を訪れた。二人は夜の静寂を破るように、携帯電話のライトを頼りに校舎内を探索し始めた。
最初は何事もなく、ただ古い教室や廊下を見て回るだけだった。しかし、音楽室に入った時、異変が起きた。突然、ピアノの鍵盤が鳴り始めた。誰も触れていないのに、ゆっくりと、しかし確かに、メロディーが奏でられる。
「演奏」が終わると同時に、二人は慌てて音楽室を出た。だが、廊下に出た途端、今度はどこからともなく子供の笑い声が聞こえてきた。最初は遠く、しかし徐々に近づいてくる。
「逃げよう」と言った瞬間、友人の足が何かに引っかかり、転んだ。懐中電灯が落ち、闇が一層濃くなった。友人は立ち上がろうとしたが、足首が何かに捕まったかのように動かない。
「何かがつかんでる!」と叫んだ友人の声は、恐怖に震えていた。二人は必死に足首から何かを取り除こうとしたが、見えない力は強く、それが何かを伝えるかのように冷たい感触が残る。
ようやく友人が解放された時、二人は走って校舎を出た。しかし、校庭に出るや否や、目の前に立つ黒い人影。まるでそこにずっと立っていたかのように、じっとこちらを見つめている。
その人影は動かず、しかし何かを待っているかのような雰囲気を漂わせていた。二人は恐怖のあまり声も出せず、ただ逃げることしかできなかった。
翌日、その若者は友人と話すも、昨夜の出来事は夢だったのか現実だったのか、どちらもはっきりしない。だが、友人の足首には青あざがあり、それがあの夜の恐怖を証明していた。
その後、地元の人々に聞くと、かつてその学校では音楽教師が生徒に厳しくしすぎた結果、事故で亡くなったのだという。その教師は、まだ生徒たちと共に音楽を奏でるために、夜な夜な学校に戻ってくるのだと噂されていた。
今から数年前のその冬の夜、廃校となった小学校は、静かに、しかし確かに、その存在を主張し続けていた。