昔、ある小さな村に住んでいた男がいた。彼は毎日、畑仕事に追われながらも、平穏な生活を送っていた。しかしある夜、彼は臨死体験をすることで、その平穏が永遠に終わりを告げることになる。
その日の夕暮れ時、男はいつものように畑から家に戻る途中だった。空は茜色に染まり、静寂が広がっていた。だが、何かが違うと感じた。背中に冷たい視線を感じ、振り返ると、そこには何もなかった。
家に着くや否や、男は急に胸の痛みに襲われた。息が苦しくなり、視界がぼやける。意識が遠のき、次の瞬間、彼は自分がどこか見知らぬ場所にいることに気付いた。
そこは暗く、冷たい空間だった。足元には水が流れ、遠くから聞こえるような、誰かの声が響いていた。彼は恐る恐る歩き始めたが、どこまで行っても出口は見つからない。
やがて男は、自分がこれまで見たこともないような巨大な影に追われていることに気付いた。その影は人間の形をしているようでいて、しかしどこか異形だった。黒く、濃密な闇から成り立っているかのようだ。
男は逃げようとしたが、足がもつれ、倒れた。影が近づいてくる音が聞こえ、恐怖で心臓が跳ねる。しかし、次の瞬間、男は自分が病院のベッドに横たわっていることに気付いた。
医師たちが慌ただしく動き回り、男の心拍数が危険なほどに下がっていたことを告げた。心臓発作だったのだろうか。男は一体何を見ていたのか、何に追われていたのか、自分でもわからなかった。
数日後、退院した男は再び畑に立っていた。だが、その日以来、夜になるとあの闇の空間と影の存在を感じるようになり、睡眠が恐怖で奪われてしまうようになった。
ある晩、彼は再びあの影に出会った。夢の中か、現実か、境界線は曖昧だった。影は再び彼を追い、そして今度は逃げ場がなくなった。男は叫び声を上げたが、誰も助けに来なかった。
最終的に、彼はその影に捕らえられ、深い闇の中へ引きずり込まれた。そして、目を覚ますことはなかった。
村人たちは、ある朝、男が畑で倒れているのを発見した。彼は既に息絶えていたが、その顔には恐怖に満ちた表情が残っていた。誰もが何が起こったのか理解できず、ただ「悪霊にでも祟られたのでは」と噂し合った。
この話は、今でも村の一部の住人たちに語り継がれ、夜が深まる頃には、誰もが恐る恐る戸を閉ざす。特に、秋の夕暮れ時には、男が見たというあの影が、再び現れるのではないかと恐れられている。