闇にささやく声

怪談

ある寒い冬の夜のことだった。私は友人と久しぶりに再会し、広島の街を散歩することにした。暖かな居酒屋を出た後、二人は広島城の近くにある古い公園を訪れることにした。夜の風は冷たく、街灯の光も少なく、公園はひっそりと静まり返っていた。

歩いていると、友人が突然足を止め、「聞こえる?」と小声で言った。私も耳を澄ませると、確かに聞こえた。微かな、しかし明らかに人間の声が、風に乗って聞こえてくる。声の主は見当たらない。風が止むと声も消えたが、再び風が吹くと、ささやくような声が再び耳に入ってくる。

「ここで何かあったんだろうか?」と私が尋ねると、友人は少し不安そうに「このあたりは昔、戦争の傷跡が深くて、怪談が多いんだよ」と教えてくれた。私たちは恐る恐る公園を一周し、特に変わったものは見つけられなかったが、心地よい静寂は得られなかった。

その数日後、私はその公園に一人で出かけた。昼間の公園は全く違う雰囲気で、子供たちの笑い声が響いていた。しかし、夕方になると、再びあの声が聞こえ始めた。今度は一人だったので、恐怖は倍増していた。

公園の一角に、古い祠があることに気づいた。そこには誰もが忘れたような、小さな石碑が一つ。石碑には文字が風化して読めなかったが、何かを感じた私は、手を合わせて一礼した。その瞬間、ささやく声が急に大きくなり、まるで耳元で話しかけられているかのようだった。

私は慌ててその場を離れたが、その夜はほとんど眠れなかった。翌日、地元の図書館で調べると、その公園がかつては戦災孤児たちの集まる場所だったことがわかった。戦後、多くの子供たちがここで死に、その霊が解放されずにさまよっているという噂が残っていた。

その日から、私はしばらくその公園には近づかなかった。だが、ある夜、夢の中で再びあの声を聞き、目覚めると部屋の窓が開いていた。冷たい風が部屋に流れ込み、私は恐怖で震えた。

この体験以降、私は心霊現象を信じるようになった。そして、広島の夜の街を歩くときは、いつもあのささやく声を思い出す。あの声は、今もどこかで、私たちに何かを伝えようとしているのかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました