闇に響く足音

実話怪談

大正時代、和歌山県のある山奥に、寂れた小さな村があった。そこに住む人々は、夜になると決して外に出ない。理由は一つ、村の外れにある古い廃屋から響く不気味な足音が原因だった。

村の一角に住む若い農夫は、この怪異に耐えかねて、ある夜、仲間と共にその真相を探ることにした。

満月がぼんやりと照らす中、彼らは廃屋に近づいた。木戸は軋み、風が通り抜ける音が寒々しく響く。内部は暗く、湿った空気が鼻をついた。

彼らが最初に見つけたのは、古い写真立てだった。そこには笑顔の家族が写っていたが、何かが違和感を覚える。写真の中の人物の一人が、まるでカメラに向かって何かを訴えているように見えた。

「何かがおかしい…」農夫が呟くと同時に、背後から足音が聞こえた。振り返ると、何もいないはずの廊下に、影が揺れていた。

その足音は徐々に近づき、最終的には彼らの間を通り過ぎていった。恐怖に震えながらも、彼らは勇気を振り絞り、声をかけ合いながら進んだ。

廃屋の奥へ進むにつれ、足音はさらに大きくなり、まるで一行を追ってくるかのようだった。そして、ついに彼らは地下室へ降りる階段を見つけた。そこから聞こえる足音は、まるで直下から響くかのようだった。

地下室は冷たく、湿った空気に満ちていた。そこには、古い布団が一つ置かれていた。布団の上には何もなかったが、足音はその周囲から聞こえてくる。

「これは…」農夫が言葉を飲み込むその時、布団からゆっくりと何かが立ち上がった。暗闇に溶け込むような存在感、それは人の形をしていたが、顔は見えなかった。

一瞬の静寂の後、恐ろしい叫び声と共にその存在が一行に襲いかかった。

翌朝、村人たちは彼らが廃屋から出てくるのを見つけたが、農夫の顔は青ざめ、目は虚ろだった。誰もが彼に何があったのか尋ねたが、彼はただ「足音…足音が…」と繰り返すだけだった。

その後、農夫は村を去り、何処へ行ったか知れず。村人たちは、今でも夜になると、廃屋から聞こえる足音を恐れ、決して外に出ない。そして、その廃屋は何者かが封印したかのように、誰も近寄らなくなった。

今でも、夜更けに、風の音と共に、誰もいないはずの廃屋から足音が聞こえるという。

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