ある夜、私は佐賀県の田舎町にある古い家に泊まることになった。数年前、そこはひっそりと静まり返っていたが、その静寂が心地よかった。
夕食を済ませ、布団に横たわった私は、窓の外から聞こえるかすかな音に気づいた。風の音だろうと思いながらも、何か違和感を覚えた。それは、まるで誰かがゆっくりと歩いているような足音だった。
その夜、私は寝付けずにいた。時計の針が深夜零時を回った頃、再びその足音が聞こえてきた。今度はもっと近くから、そして間違いなく家の中からだった。心臓が早鐘を打つ中、私は恐る恐る起き上がり、部屋の明かりをつけた。
部屋には誰もいなかった。だが、その瞬間、廊下から足音が聞こえ始めた。ドアの向こうから、何かがゆっくりと近づいてくる。私は息を殺し、ドアノブに視線を向けたが、何も起こらなかった。
その翌朝、私は地元の人にその話をした。すると、彼は苦笑いしながら話した。
「ああ、あの家はね、昔から変なことが起こるって言われてるんだ。特に夜中に足音が聞こえるって話が多い。でも、その足音はね、この世のものじゃないって言われてるんだよ。」
その言葉にぞっとした私は、その日以降、何も聞こえないように耳栓をして眠るようになった。だが、数日後、またしても足音が聞こえてきた。この時は、音は部屋の真ん中から響いていた。
私は逃げるようにその家を出たが、その日からしばらくは、どこにいてもその足音が聞こえるようになった。特に静かな夜には、その異界からの足音が、私を眠らせない。
今でもその足音は、時折私を訪ねてくる。まるで異世界からの使者か、何かを見せつけようとするかのように。あの佐賀の夜の恐怖は、私の記憶の中で生き続けている。