夜の駅で見たもの

怪談

京都の冬は冷え込みが厳しい。特に駅のホームでは、その寒さが一層身に染みる。ある晩、電車の最終便を待つ男は、薄暗いホームで奇妙な体験をした。

駅の時刻表は23:50を示し、ホームには人影がほとんどなかった。男はコートの襟を立て、息が白くなる中で黙々と待っていた。突然、向かいのホームで何かが動いた気がした。視線を向けると、そこには誰もいないはずのホームに、一人の女性が立っていた。彼女は背を向け、ぼんやりとした光に照らされている。

その姿はまるで時間が止まったかのように静止していたが、突然彼女が振り返った。男はその瞬間、心臓が止まるような感覚に襲われた。彼女の顔には表情がなく、目は黒く塗りつぶされていた。男は思わず後ずさり、一瞬目を逸らした。再び見た時には、そこに誰もいなかった。

不思議に思いながらも、男は電車が到着するのを待った。電車がホームに滑り込むと、男は慌てて乗り込んだ。車内はがらんとしており、他の乗客はほとんどいなかった。座席に着くと、窓の外を見ると、さっきの女性がホームにまだ立っているのが見えた。

その光景にぞっとしながら、男は携帯を取り出し、時刻を確認した。すると、時計は23:50のまま止まっていた。男は急に不安になり、慌てて駅名を確認した。そこには、自分の降りるべき駅の名前ではなく、さっきの駅の名前が表示されていた。

電車はそのまま走り続け、男は何度も時計を確認したが、時間は一向に進まなかった。焦りが募る中、次の駅に着くと、男は慌てて降りた。そこはまた、さっきの駅だった。ホームにはあの女性が、再び背を向けて立っている。男は恐怖に駆られ、再び電車に乗り込んだ。

最終的に、男は逆方向へ向かう電車に乗り換え、ようやく自宅にたどり着いた。しかし、家に帰ると、家族は全員が姿を消していた。部屋の中は静まり返り、冷気が満ちていた。台所の時計を見ると、そこにも23:50と表示されていた。

男は震えながら、テレビをつけた。ニュースでは、昨夜の最終電車に乗った乗客が行方不明となっていると報じていた。その中には、男の名前も含まれていた。男は現実と非現実の間で揺れ動き、恐怖に飲み込まれていった。

翌朝、駅員がホームで一人の男の遺体を発見した。遺体は、時間が止まったかのように冷たく、顔には恐怖の表情が刻まれていた。

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