夜の帰り道

怪談

ある冬の夜、深夜の11時を回った頃だった。私は仕事が遅くなり、埼玉県のとある郊外の小さな駅で電車を降りた。駅から自宅までは歩いて20分ほどの距離だが、夜遅くの帰り道はいつも以上に静かで、暗闇が広がっていた。

道は街灯が点々と照らす細い小道で、周囲は田んぼや畑に囲まれている。通常は昼間なら農家や散歩する人々が見られる場所だが、今夜は人影もなく、ただ風の音と自分の足音だけが響いていた。

歩き始めて10分ほど経った時、私は違和感を覚えた。後ろから何かがついてくる気配があったのだ。恐る恐る振り返ると、そこには誰もいない。しかし、その瞬間、視界の端で何かが動いたように見えた。

心臓が早鐘を打つ中、私は歩調を速めて進んだ。しかし、その気配は引き続き感じられた。時折、背後から聞こえるような、しかし確証のない足音。私は思わず振り返るが、やはり何も見えない。

そして、家の近くまで来たとき、私は一つの小さな神社の前を通った。そこでは、古い石灯籠が一つだけ、弱々しく光を放っていた。普段なら何とも思わない場所だが、今夜はその灯りが異様に見えた。

神社の前で足を止め、再度周囲を見回すと、そこにあったのは、私が見たことのないような、真っ黒い影だ。その影は、まるで私を追いかけていたかのように、ゆっくりと近づいてきた。

恐怖で身動きが取れなくなる中、私は必死に自宅まで駆け出した。玄関の扉を開ける時、その影はもう見えなかったが、その存在感はまだ肌に感じていた。

家に入り、扉を閉めた瞬間、異様な安堵感と共に、背後に何かがいるような気配が消えた。しかし、その夜は眠れず、窓の外を何度も確認した。

翌朝、明るくなった時、私は昨夜のあの影について考えた。あれは何だったのか、幻覚だったのか、あるいはこの地に伝わる何かの霊だったのか。埼玉のこの地には、何か古いものが眠っているのかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました