鹿児島県の山奥に住む家族の話だ。
今から30年前、ある冬の夜のことだった。その晩、雪が降り積もり、家の周りは静寂に包まれていた。家族は暖炉の前に集まり、静かな時間を過ごしていた。だが、その平和は突如として破られた。
長男が外から戻ってきた時、彼の顔は青ざめており、口から出る言葉は震えていた。「何かが、何かが見てるんだ…」と彼は話した。家の裏庭にある森の方から、赤い目がこちらを見つめていたというのだ。
家族は一斉に窓の外を見たが、雪が舞い散って何も見えなかった。それでも、長男の恐怖は消えず、彼は何度も「赤い目…」と呟き続けた。
その夜、家族は誰もが不安を抱えながら眠りについた。だが、深夜に訪れたのはさらなる恐怖だった。母親が目を覚ますと、家の外から聞こえるのは、何かが窓をこする音だった。彼女は恐る恐る窓のカーテンを開けたが、そこに見たのは赤く光る目だった。
翌朝、父親は森へ足を踏み入れた。雪の上には大きな足跡が連なっていたが、それが何のものかはわからなかった。日が経つにつれ、家族はその存在を忘れようとしたが、夜になると必ず何かが家の周りをうろつく音が聞こえた。
ある晩、家族全員が目を覚ました時、家の中にいるはずのない誰かが床を歩く音が聞こえた。恐る恐る家の外に出てみると、そこには誰もいなかった。だが、家の裏にあった古い井戸の蓋が開けられ、赤い目の何かがその中から覗いているような気配があった。
その後、家族はその家を出て行った。だが、引っ越し先でも時折、夜中に赤い目の存在を感じることがあった。あの山の何かが、彼らを追ってきたかのように…。
今でもその家族は、夜になると窓をしっかりと閉め、闇にひそむ何かが再び現れないかと恐れている。