血染めの着物

怪談

大正時代の和歌山県には、ある怪談が今でも語り継がれている。

ある晩、若い女性が夜道を急いでいた。彼女は、友人と別れ、自宅へ帰る途中だった。夜空は月も星も見えず、ただ闇が広がっていた。その時、彼女は一軒の古い屋敷を見つけた。屋敷は朽ち果てており、まるで人が住んでいないかのようだったが、何故か一室だけ仄かな灯りが漏れていた。

好奇心に駆られた彼女は、恐る恐るその屋敷に近づいた。門をくぐると、風が吹き、木々がざわめき、まるで何かを警戒しているかのようだった。彼女は入り口の引き戸をそっと開け、中に入った。部屋には古い家具が散乱し、埃が積もっていたが、奥の部屋だけは奇妙に整頓されていた。

そこには、美しい着物が畳の上に広げられていた。赤みがかった色合いのその着物は、まるで血のようでもあり、何か恐ろしい物語を秘めているかのように見えた。彼女はその着物に触れてみた。すると、不思議なことに、着物から温もりが感じられた。

突然、背後から声がした。「その着物、着てみる?」振り返ると、そこには見知らぬ老婆が立っていた。彼女は驚いたが、老婆の言葉に引き込まれるように、その着物を試みた。

着物を身に纏った瞬間、彼女は異常な寒さを感じた。そして、鏡を見ると、彼女の顔が見知らぬ女の顔に変わっていた。恐怖に駆られ、彼女は着物を脱ごうとしたが、どうしてもそれは叶わなかった。

老婆は笑いながら、「その着物は、昔、この屋敷で悲劇に遭った娘のものだ。着た者は、その娘の運命を引き継ぐ」と言った。彼女は恐怖で震えながら、どうにか屋敷を出ようとしたが、足が動かない。

その夜、彼女は屋敷から出ることができず、翌朝、彼女の姿は消えていた。ただ、畳の上には血染めの着物だけが残されていたという。

この話を聞いた人々は、皆口を揃えて言う。「あの屋敷には絶対に近づくな」と。しかし、好奇心に駆られた者も後を絶たず、その度に悲劇は繰り返されるのだという。

今でも、夜更けに一軒の屋敷から灯りが漏れることがある。その時、訪れる者には哀れな運命が待ち受けているかもしれない。

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