平成のある冬、北海道の辺鄙な村に住む男がいた。男は毎晩のように雪原を歩き、村の人々とはほとんど口をきかなかった。ある晩、男はいつものように雪原を歩いていたが、突然、自分の足跡以外にもう一つの足跡が続いていることに気がついた。それは彼の足跡と同じ大きさで、同じ間隔で進んでいた。
男は最初、その足跡が自分のものだと思ったが、よく見るとそれは自分の足跡の少し後ろに続いていた。驚きつつも、男はその足跡を辿ることにした。足跡は村の外れにある古い廃屋に続いていた。
廃屋の扉を開けると、異様な寒さが彼を襲った。部屋の中は暗く、何かが息づいているような気配があった。男は震えながらも中に入り、部屋の中央に置かれた古びた鏡を見つけた。鏡には何も映っていなかったが、男はその中に何かを見た気がした。
その時、背後から冷たい息吹が感じられ、振り返ると何もいなかった。しかし、男の耳にささやき声が届いた。「お前はもう一人ではない」
恐慌を来たしながら、男は村に戻った。だが、その日から男は変わってしまった。村人たちは男が誰かと話しているように見えることがあると言い始めた。男は自分が一人でいるときでも、常に誰かが側にいるような感覚に苛まれていた。
村の人々は男を避けるようになり、男は次第に孤立した。そして、ある夜、男は再びその廃屋に足を運んだ。廃屋は以前よりさらに寒く、異様な気配が漂っていた。男はまたしても鏡の前で立ち止まり、何かを見つめていた。
その時、鏡に映ったのは男自身の姿と、もう一人の男の姿だった。その男は笑みを浮かべ、まるで自分自身のように見えた。男は叫び声を上げようとしたが、何も出てこなかった。
翌朝、村人が廃屋に行くと、男はそこに倒れていた。男の体は冷たく、まるで氷のように硬直していた。その傍らには、雪に埋もれた二つの足跡が続いていた。しかし、その足跡がどうやって廃屋に入ったのか、誰も説明できなかった。
村人たちはその後、廃屋を訪れることを禁じ、男の体験は伝説として語られるようになった。そして、毎年の冬になると、その廃屋の周りには、誰もいないのに続く足跡が見られるという。