平成の初頭、石川県のとある小さな町では、古い小学校が閉鎖されることになった。町の人々はその学校を「廃校」と呼び、夜になると訪れる者などいない場所だった。
ある晩、私はその廃校に用事があり、夕暮れ時に訪れた。校舎はすでに荒れ果て、窓ガラスには蜘蛛の巣が張り巡らされ、周囲の静寂はまるで時間が止まっているかのようだった。
用事を済ませて出る際、校舎の奥からかすかに足音が聞こえた。私は思わず振り返ったが、そこには何も見当たらなかった。ただ、暗闇の中に沈む廊下だけが広がっていた。それでも、足音は確かに近づいてくる。
私は慌てて玄関に向かったが、足音もまた追ってくるかのように響いた。玄関に辿り着くと、そこには誰もいないはずなのに、靴を履く音が聞こえた。私は急いで靴を履き、外に出た。
外はすっかり暗くなっていた。家路を急ぐ中、ふと振り返ると、廃校の窓から一瞬だけ人影が見えた気がした。それは子供の影だった。
その後、私はその廃校の近くには決して近づかないようにしていたが、時折、夜中に足音を聞くことがあった。特に雨の日や風の強い夜、窓の外から聞こえる足音はまるで誰かが追いかけてくるかのようだった。
数年後、その廃校の話を地元の年配の人に聞いた。かつて、その学校で事故があったという。子供が一人、学校の屋上から転落し、その後その学校は閉鎖されたらしい。事故のあった日は、雨が降っていたという。
私はその話を聞いて、夜の足音が何だったのか、少しだけ理解できた気がした。だが、それと同時に恐怖も増した。あの足音は、未だにその学校を去っていない魂の足跡だったのかもしれない。
今でも、あの廃校の存在は私の心に深い闇を残している。夜中に聞こえる足音は、私が決して忘れられない恐怖の象徴であり続けるだろう。