闇に潜む影

実話

30年前、静岡県のとある山間部に住む家族がいた。夫婦とその一人の娘は、静かな生活を送っていた。しかし、彼らの日常はある晩、突然に崩れ去ることとなった。

ある秋の夜、娘は学校の課題で深夜まで起きていた。家は山に囲まれており、夜になると静寂が辺りを支配する。彼女は窓辺で勉強していたが、その時、外から不気味な音が聞こえた。カサカサと葉擦れの音に混じって、何かが這うような音だった。

彼女は恐る恐る窓に近づき、外を覗いた。月明かりが薄ぼんやりと森を照らし出していたが、何も見えなかった。しかし、その瞬間、彼女の視界の端で何かが動いた。黒い影が、まるで液体のように樹から樹へと移動するのが見えた。彼女は恐怖で声も出せず、逃げるように部屋に戻った。

その後、家族は様々な異常に気づき始めた。夜中に聞こえる奇妙な声、家の中で突然消える物、そして何よりも、一日の終わりに見つける不気味な足跡だった。足跡は人間より大きいもので、家の周囲をぐるりと囲むように残されていた。

恐怖に耐えかねた夫婦は、地元の古老に相談した。古老は黙って頷き、古い話を始めた。「この地には古くから、夜の闇に潜むものがいると言われている。それは人間の形を借りて現れ、心を惑わせる」。

古老が去った後、家族は対策を講じることにした。塩を敷き、鏡を置き、神棚を設けた。しかし、不思議な現象は収まらなかった。ある夜、娘は再びあの影を見た。窓から見える影は、今度は家の内側、彼女の部屋の隅にいた。

恐怖の絶頂に達した彼女は叫び声を上げたが、声はまるで空気中に溶けるように消えていった。それから数日、娘は学校に行けなくなり、家の中で震えながら過ごすようになった。

最終的に、家族はその土地を離れる決断をした。しかし、引っ越しの日、トラックに荷物を積み込む最中、娘は再びあの影を見た。それは今度はトラックの荷台に忍び込むかのように見えた。彼女はその瞬間、理解した。この影は彼女と共にどこへでもついてくるのだと。

彼らが新しい土地にたどり着いた時、その家もまた山に囲まれていた。夜が来ると、彼女は再び窓辺に立つ。そして、外を見る。そこには、静寂と、そして、あの影が。彼女は今度こそ逃れられない恐怖を感じながら、毎夜を過ごすこととなった。

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