高知県の深い山奥、高知市から車で一時間ほど走った場所にある小さな村には、古くから伝わる怪談がある。
ある秋の深夜、私は仕事でこの村を訪れていた。村の人々からは「夜は絶対に外に出ないほうがいい」と釘を刺されていたが、どうしても報告書を仕上げなければならず、深夜の2時ごろまでパソコンに向かっていた。
報告書を終えた私は、少し頭を冷やそうと玄関の外に出た。村は静寂に包まれ、山々の間から見える星がひときわ明るく輝いていた。しかし、その静けさの中に、微かな足音が聞こえた。最初は自分の耳の錯覚かと思ったが、確かにそれは山道から聞こえてくる音だった。
私は好奇心から、音のする方向へと歩き出した。村の外れに続く細い山道は、夜の闇に覆われており、足元もろくに見えないほどだった。足音は徐々に近づいてくる。私は何かを確かめたい衝動に駆られながらも、恐怖で足が震えた。
やがて、足音は私のすぐ後ろまで来ていた。振り返る勇気が出ず、ただ立ちつくすことしかできなかった。その時、何かが私の肩に触れたような感覚がした。驚いて振り返ると、そこには誰もいなかった。だが、その瞬間、私の心臓は止まるかと思うほど脈打った。
翌朝、村の老人にその話をすると、彼は静かにこう言った。「あれは、昔この村で行方不明になった若者の霊だと言われている。夜の山道を歩くと、必ずその足音が聞こえる。だが、決して振り返ってはならない。振り返った者は、二度と村に戻ってこないんだよ。」
その言葉は、私の背筋を冷たくさせた。仕事が終わった今でも、夜の山道を歩く恐怖は忘れられない。高知の山々は、自然の美しさとともに、恐ろしい伝説も秘めているのだ。