闇に聴こえる声

闇に聴こえる声 ホラー
闇に聴こえる声

昭和のある夏の夜、長崎県のとある山間の小さな村で、不可解な事件が起こった。
村は深い森に囲まれ、夜になると静寂が支配する。そんな村で、ある晩、数人の若者が集まって肝試しをすることにした。

彼らは村の外れにある、古びた廃校に向かった。かつては賑わっていたが、今では誰も住んでおらず、風雨にさらされた建物は朽ち果てていた。廃校の入り口に着くと、異様な冷気が彼らを包み込む。扉を開けると、軋む音が夜の静けさを引き裂いた。

中に入ると、埃と古い紙の匂いが鼻をついた。教室に入り、机や椅子が散乱している中、ひとりの若者が冗談で「先生、出席を取りますよ」と叫んだ。その瞬間、教壇の向こうから低くて明瞭な声が響いた。「はい、出席。」

驚いた若者たちは一斉に振り返ったが、そこには誰もいなかった。恐怖に駆られ、一目散に外へ逃げ出した。だが、その声は彼らの耳元でずっと囁き続けた。「待って、私も一緒に…」

その日の後、村の若者たちは次々と不思議な体験をするようになった。夜中に聞こえる足音、見えない何かが彼らを追いかけてくる感覚、そして誰もいないはずの場所で見つかる新たな足跡。

中でも特に怖かったのは、ある若者が夜中に目覚めたときのことだ。彼の部屋には見知らぬ子供の声が響いていた。「遊ぼう」と言うその声は、窓の外から聞こえていた。恐る恐る窓を開けてみると、そこには月明かりに照らされた庭に何も見えなかった。しかし、声は確かに存在し、彼はその声に引き寄せられるように外へ出てしまった。

村の人々は、この不可解な現象について語り始めた。昔、この学校で何か恐ろしいことがあったという噂が再び浮上した。戦時中、ここで子供たちが何かの実験に使われたという話もある。そしてその子供たちの魂が、まだこの地に縛られているのだと…

夏が終わる頃、村で最後に肝試しに参加した若者が姿を消した。彼の部屋からは、開かれたままの窓と、机の上に置かれた古い教科書が見つかっただけだった。それ以降、彼の消息は一切掴めず、村の人々はその事件を語るのを避けるようになった。

今でも、この村へ訪れる者は、夜の静寂に耳を澄ますと、どこからともなく「出席」とか「遊ぼう」という声が聞こえるという。特に新月が訪れる夜は、その声が最もはっきりと聞こえるらしい。そしてその声を聞いた者は、二度と元の生活を取り戻すことができないという。

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