夜の山道

実話

二十年前の秋、私は香川県のとある山間部に住んでいた。村は小さく、夜になると街灯も少なく、闇が深く広がる場所だった。

ある晩、友人と一緒に山道を歩いていた。目的は、村はずれの古い神社に行くことだった。そこには、一年中閉ざされている祠があり、その中に何かが封じられているという噂があった。

道中、風が木々を揺さぶり、まるで何かが私たちを追っているかのような音が響いていた。友人は冗談めかして、「この道は昔、人を食べる化け物が出たって言うんだよ」と言った。私は笑って聞き流したが、内心では恐怖が募っていた。

神社に着くと、祠からは何の音もせず、ただ静寂だけが支配していた。友人が祠の戸を少しだけ開けようとした瞬間、突風が吹き、祠から何かが飛び出してきたように見えた。二人とも驚いて身をすくませたが、何も見えなかった。

帰り道、私たちは急いで歩いたが、足音が私たちのものだけではない気がした。振り返ると、何もなかったが、背後の茂みから視線を感じた。そして、突然、友人が足を止め、「何かが見えた」と呟いた。私も見たが、闇の中で何も見えず、ただ寒気が走った。

家に帰るまでに、何度も何かが後ろから追ってくる感覚に襲われた。安全に家に着いた後も、私の部屋の窓から何かがじっと見ているような気がして、眠れなかった。

翌日、村の年寄りに昨夜のことを話したところ、彼は真剣な顔で「この村には、夜の山で出会ってはいけないものがいる。見た者は必ず何かを失う」と言った。

その後は、夜の山道を絶対に歩かないようにした。だが、時折、夢の中であの祠の扉が開く音や、闇の中から聞こえる足音を思い出し、恐怖で目が覚めることがあった。

そして何年か経ったある日、村で一人の男性が夜道で行方不明になった。発見された時、彼は何も言わず、ただ震えていたという。村人はそれ以降、夜の山道を避けるようになった。

今でも、あの夜の恐怖は私の中に深く刻まれている。夜の山道で何を見たのか、何が追ってきたのか、それは永遠に分からないままだ。

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