深夜の山道

深夜の山道 ホラー
深夜の山道

愛媛県の山奥にある小さな町では、夜が深まると誰もが口をつぐむような話がささやかれていた。特に、10年前のある寒い冬の夜に起こった出来事は、今でも地元の人々の間で語り継がれている。

その夜、雪が降り積もり、町は白一色に染まっていた。ある男が、仕事から夜遅くに戻る途中、普段は使わない山道を通ることになった。彼は、自分の住む村までもう少しというところで、突然エンジンが止まってしまった。

辺りは真っ暗で、携帯電話の電波も届かない。男は車から降り、懐中電灯を手に歩き出すしかなかった。雪の積もった道は、足元が不安定で、しばしば滑ってしまう。男は震えながらも、少しでも早く家に帰ることを願った。

しばらく進むと、彼は道の先にぼんやりとした光を見つけた。救いのようなその光は、まるで誰かが彼を待っているかのように揺れていた。男はその光に向かって歩みを進めたが、どうしても距離が縮まらない。

それでも、彼は止まらずに歩き続けた。すると、突然、背後から足音が聞こえてきた。振り返ると、そこには何もいなかった。しかし、足音は確かに存在し、男の歩みに合わせるかのように後をついてくる。

恐怖に駆られた男は、走り出す決心をした。だが、その足音もまた速くなり、彼を追い越す勢いで迫ってくる。男は息を切らしながらも、絶対に振り返らないと自分に言い聞かせた。

やがて、彼は自分の家の門柱を見つけた。しかし、その瞬間、背後で何かが彼の名を呼ぶ声が聞こえた。男は一目散に家の中に飛び込み、ドアをロックした。

翌朝、男が外に出ると、彼の車は奇妙なことに、家から遠く離れた場所に見つかった。車の周りには、新たな足跡が一つもなく、ただ彼の足跡だけが雪の上に残されていた。その後、彼は一度もその道を通ることはなかった。

この話は、地元の人々の間で「山道の怪異」として知られるようになった。その夜の出来事から、誰もが夜の山道を避けるようになった。そして、今でもその話が語られるとき、聞いている者全員が身の毛もよだつ思いをするのだ。

タイトルとURLをコピーしました