ある秋の夜、私は田舎道を歩いていた。周囲は真っ暗で、月明かりだけが頼りだった。いつもなら何気なく通り過ぎるこの道も、この日は異様に静かで、まるで時間が止まっているかのようだった。
突如、背後から何かが近づいてくる気配を感じた。振り向くと、何も見えなかったが、その瞬間から、ひんやりとした冷気が私の体を包み込んだ。心臓が早鐘を打ち始める中、道の先に見慣れない古い家が見えた。
その家は、まるで誰も住んでいないかのように荒れ果てていたが、明かりが一つだけ点っていた。好奇心と恐怖心が交錯しながらも、私はその家に引き寄せられるように近づいた。
玄関の扉は半開きで、中から聞こえるのはかすかな足音だけ。恐る恐る中に入ると、そこには何十年も前の生活が残されていた。古びた家具、埃をかぶった写真立て、そして、壁にかかった古い時計が止まっていた。
家の中を探検していると、二階から聞こえる微かな子供の笑い声。急いで階段を上ったが、二階には誰もいなかった。しかし、ある部屋のドアが少し開いていたので、それを押し開けて中に入った。
部屋には、古い木製のベッドと、壊れた玩具が散乱していた。窓際で風に揺れるカーテンが、まるで誰かがそこにいるかのようだった。そして、再び子供の笑い声が聞こえ、私はその声の方向を見た。
そこには、何もない空間。だが、その視線の先に、何かが動いた。見えない何かが、私の視界をかすめた。恐怖に駆られ、その場から逃げ出そうとした瞬間、背後から冷たい手が私の肩を掴んだ。
振り返ると、何も見えなかったが、その感触は消えなかった。私はパニックになり、家から飛び出し、必死で走った。家の外に出ると、夜の静けさが一層深まったように感じ、その冷たい手の感触がまだ残っていた。
後日、調べてみると、その家は何十年も前に一家が謎の失踪を遂げた場所だと知った。特に、その家族の子供たちは、夜な夜な遊び回っていたという噂が村に伝わっていた。そして、その家の近くを通る人々は、度々見えない何かに追いかけられるという報告もあった。
この体験以降、私はその道を通ることはなくなったが、時折、夢の中でその子供の笑い声と冷たい手の感触を感じることがある。まるで、彼らがまだそこにいるかのように。