平成の初め、ある小さな町に住んでいた私は、友人たちとよく夜の散歩を楽しんでいた。ある夜、私たちは町はずれにある、廃校になった小学校を訪れることにした。
その小学校は、数年前に統廃合で閉鎖されたもので、長い間、誰も近づかない場所になっていた。夜の闇に包まれた校舎は、まるで異世界のように見えた。鉄柵は錆びつき、校庭には雑草が生い茂っていた。
友人の一人が、「ここで肝試しをしよう」と提案した。みんなが少し怖がりながらも、好奇心に負けて同意した。私たちは手分けして校舎内を探検することにした。
私は1階の教室を回っていた。部屋の中は埃が積もり、机や椅子は所狭しと置かれていた。窓ガラスは一部割れており、冷たい風が吹き込んでくる。突然、背後から何かが倒れる音が聞こえた。振り返った瞬間、何もなかった。
その後、2階へ上がった。長い廊下を進むと、音楽室のドアが開いていて、ピアノの音が微かに聞こえるような気がした。だが、近寄ってみると、ピアノの上には埃が積もり、鍵盤には触れられていない痕跡さえなかった。
友人の一人が、屋上に行こうと提案した。屋上からは町の夜景が見渡せ、普段とは違う風景に一種の解放感を覚えた。しかし、その解放感も束の間、突然、私たちの耳に歌声が聞こえてきた。子供の歌声だ。だが、学校には他に誰もいないはずだった。
「聞こえる?」友人が小声で聞いてきたが、全員が頷いた。歌声は徐々に近づいてくるかのように感じられた。私たちは慌てて屋上を降り、校舎を出ようとした。
しかし、一階に下りると、玄関の扉が開かなくなっていた。恐怖で身が竦む中、再び歌声が聞こえてきた。今度ははっきりと、まるで目の前で歌っているかのように。
「助けて!」と叫ぶ友人。私たちは必死で別の出口を探した。体育館の裏に小さな扉を見つけ、そこから外へ出ることができた。
家に帰ってからも、歌声が耳から離れなかった。後日、地元の老人から聞いた話では、その学校でかつて事故があったらしい。ある生徒が高所から転落し、亡くなったという。そして、その生徒は死後も学校に残り、夜になると歌を歌うという噂が広まっていたのだ。
それ以来、私は夜の廃校を訪れることはなかった。だけど、あの夜の恐怖は今でも鮮明に覚えている。