大正時代の岡山県には、多くの不思議な伝説が残されています。その中でも特に恐ろしい話が、ある山間の村に伝わる「山間の怪」です。
この話は、村の老人たちから口伝えで語り継がれてきました。ある寒い冬の夜のこと、若い男が山道を急いで家路を急いでいました。彼は村のはずれにある家に住んでおり、日が暮れる前に帰宅するのが常でしたが、その日は仕事が遅くなり、夜道を歩くことになってしまいました。
道中、彼は何かが後ろをついてくる気配を感じました。振り返ると、そこには何も見えませんでしたが、寒さを通り越した冷たさが背中を這い上がるような恐怖を覚えました。男はできるだけ早く家にたどり着こうと足を速めましたが、どれだけ走っても家は近づいてこないように感じ、心細さが募るばかりでした。
やがて、男は小さな祠の前を通過しました。その祠には、古びた石像が鎮座していました。男は一時思案し、祠に手を合わせて何かを祈るようにしました。しかし、その瞬間、風が一層強くなり、祠の周りで木々が激しく揺れ動き始めました。
さらに恐ろしいことに、祠の石像が見る見るうちに動き始め、男に向かってゆっくりと歩みを進めてきたのです。男は驚愕し、その場から逃げ出そうとしましたが、足は震えて思うように動きません。石像は近づくにつれて、その表情が歪み、口から異様な声を発し始めたのです。「なぜ、ここに来た?」
男は必死で答えましたが、石像はそれに答えることなく、ただ男をじっと見つめていました。その視線はまるで魂を吸い取るような力を持っており、男は恐怖で気を失いそうになりました。
気がつくと、男は自宅の前にいました。どうやって帰ってきたのかも覚えていません。家人に話すと、彼らは顔色を変え、「あの祠は昔から祟りがあると言われていた。夜は絶対に近づいてはいけない」と言いました。
それ以降、男はその山道を歩くことができなくなり、村の外れに住むことを恐れました。そして、山間の怪は村の人々に恐れられ、夜は誰もが早々と家に引きこもるようになったのです。この話は、村の冬の夜長に語られることとなり、一種の戒めとして子々孫々に伝えられています。

