夜の山道で出会ったもの

実体験

昔、山形県の奥深い山々に囲まれた小さな村に、一人の男性が住んでいました。彼は地元の林業に従事しており、毎日のように山へ出かけていました。しかし、その日常はある夜、一変することになります。

ある秋の夜、男性は仕事が終わった後、帰り道に山道を歩いていました。月明かりだけが頼りの暗い道で、辺りは静寂に包まれていました。すると、突然、遠くから聞こえるような子供の笑い声が彼の耳に届きました。それは一瞬にして辺りの静けさを破り、男性の心をざわつかせました。

「子供がこんな時間に、山で何をしているんだ?」と彼は思わず立ち止まりました。だが、辺りを見回しても、人の姿は見当たりません。笑い声は徐々に近づいてきて、まるで彼を追いかけるように響き渡ります。

男性は慌てて歩を進めましたが、笑い声は消えるどころか、ますます鮮明に聞こえてきました。彼は恐怖に駆られながらも、道を急ぎました。すると、彼の視界の端に、ぼんやりと白いものが見えました。それは子供の姿をした何かで、笑いながら彼を見つめていました。

その姿は月光に浮かび上がり、まるで実体がないように見えました。男性は恐怖で足がすくみ、立ち止まってしまいました。白い子供は彼の前に立ちはだかり、笑みを浮かべたまま近づいてきました。

その瞬間、男性は逃げることも考えましたが、何かが彼を引き留めました。子供の目には深い悲しみがあり、彼はその目から逃れられないように感じました。

「何かを伝えたいのか?」と男性は思わず声をかけましたが、答えは返ってきませんでした。代わりに、子供はゆっくりと手を差し出し、その手の先には何か小さなものが握られていました。男性が恐る恐る近づき、その手の中を見ると、そこには古びたおもちゃの車がありました。

「これは…?」と男性が呟くと、子供の姿は徐々に薄れ、消えてしまいました。笑い声も一緒に消え、辺りはまた静寂を取り戻しました。男性は震えながらも、そのおもちゃを拾い、家に持ち帰りました。

翌日、村の年寄りから聞いた話によると、数十年も前にこの山で子供が行方不明になったことがあり、その子が最後に持っていたのがまさにそのおもちゃの車だったというのです。男性はその夜の出来事を誰にも話さず、ただ心に深く刻みました。

それ以来、彼は夜の山道を歩くことはなくなりました。そして、そのおもちゃは、彼の家に大切にしまわれ、訪れる者には決して見せられることはありませんでした。だが、時折夜中に聞こえる笑い声が、男性をその恐怖の夜に引き戻すことがありました。

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